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百年企業

2018年06月号

新たな経営戦略で
の魅力を次世代に伝える

日本家屋には欠かすことのできない「畳」だが、近年は住宅の洋室化が進み、需要は減少の一途をたどっている。しかし、そんな時代の流れに逆らうように、栃木県宇都宮市の老舗畳店・酒井畳工業は、ここ数年で大きく業績を伸ばしている。5代目の酒井 信明社長に、これまでの道のりと成長の秘訣について伺った。

コンピュータ制御の最新機を導入

1868年(明治元年)に栃木県鹿沼市で創業した「たたみの酒井」は、代々、町の畳屋として営業を続けている。戦争や天災、それに伴う経済状況の変化など、時代の波に押しつぶされそうになりながらも地域密着で丁寧な仕事に邁進、昭和後期には現在の地へと移転した。伝統の職人技に支えられた同社は、新天地でも評判になるが「私が入社した1990年頃から住宅の和室がどんどん減り、また新素材の畳が出はじめたことで経営改革に迫れた」と酒井 信明社長は振り返る。

そもそも伝統的な畳は、稲わらを重ねた「畳床」に、いぐさの「畳表」を縫い付けて作られるが、近年は発泡スチロールや木材チップなどを使った「建材畳床」が主流になり、畳表にもナイロンや和紙などの新素材が用いられるようになってきている。さらに通常の畳の厚さは55~60㎜ほどだが、洋間と和室が混在する住宅では、15㎜前後の「バリアフリー畳」が重宝されるようになった。

こうした新時代の畳は、伝統的な職人技だけでは作ることができず、特に「建材畳床の裁断、縫い合わせは手作業では不可能」という。そこで、酒井社長は2004年の社長就任後まもなく最新機械の導入を決意。結果、「コンピュータ制御によって寸法通りに畳表と縁を縫い合わせていけるようになり、サイズや素材、あらゆるニーズに対応できるようになった」というが、「それでもなかなか経営状態は改善しなかった」そうだ。

BtoBからBtoCへ舵を切る

機械化により生産数が増えたのにもかかわらず、社長就任時に4000万円ほどあった年商は徐々に下がり、14年には3000万円まで落ち込んでしまう。その理由について「BtoB主体で住宅メーカーなどに納品することが多く、利益率が低かったからだ」と酒井社長は分析する。

危機感を募らせた酒井社長は、今度は畳店経営者専門のビジネススクールに通うことに。経営やマーケティングについて勉強し直し、個人客の掘り起こしの大切さに気づかされたという。「以前はまとまった注文がある法人客を重視していたが、利益率は個人客のほうが良いことが分かった。そこで、思い切って個人客を中心とした経営方針にシフトすることにした」と話す。こうして同社は新聞チラシやダイレクトメールの配布、畳の素材を使った小物の販売、道の駅で畳作りの体験教室を開催するなどして、個人客向けの宣伝・営業に注力。「イベントなどでお客さんに畳の魅力を伝えながら、顧客データを少しずつ集めた」そうだ。

こういった地道な営業戦略が実を結び、もともと全体の10%程度だった個人客の売り上げは、4年後の現在は50%まで増加。それに伴い年商も回復し、昨期は5000万円、今期は7000万円に迫る勢いだ。そして現在はさらに生産体制を強化すべく、新工場への移転を検討中とのこと。「匂い、肌触り、見た目の美しさ、さらに空気の清浄効果もある畳は、優れた点が多く、それを日常的に使えるのは日本人の特権だと思う」と酒井社長。最新技術と伝統の技を融合させた同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

5 代目の酒井社長

5 代目の酒井社長

職場風景

職場風景

たたみの酒井(STKコーポレーション株式会社)

所在地
栃木県宇都宮市駒生 1-10-37
TEL
0120-018-373 (フリーダイヤル)

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