中国と日本で磨いた料理の腕

髙見 正彦所長（以下、敬称略）　呉さんは中国のどのあたりのご出身なのでしょうか。

呉 勇代表（以下、敬称略）　私は中国南部にある海南島の出身で、その後、香港の隣りにある深?で暮らしました。料理を始めたのは小学生の時で、当時から家族のためにいろんな料理を作っていましたし、親戚が集まる時などにはたくさんの料理でもてなしたりしていました。

髙見　いつ頃から本格的に料理のことを学び始めたのですか。

呉　高校卒業後に料理学校に進学し、その後、海南島にあるホテルで料理人として働き始めました。ホテルで最初に教えてもらったのは豚の丸焼きでしたが、焼き方一つとってもさまざまな技術があることを知り、中華料理の奥深さや面白さを改めて学びました。また、このホテルで初めて本格的に海鮮を主体とした広東料理の作り方を学ぶことができました。

髙見　それからどのような経緯で来日したのですか。

呉　神戸を中心に多店舗展開をしている「老香港酒家（オールドホンコンレストラン）」のオーナーに声をかけていただき、1993年に来日しました。それから阪神・淡路大震災の影響で一時帰国したのですが、しばらくして日本に戻り、老香港酒家で料理長として働きました。そして、2006年からは「淡路夢舞台」（兵庫県淡路島）というリゾート施設の中にできた「老香港酒家 淡路夢舞台店」で料理長を務めました。その後、2008年からはウェスティンホテル淡路の「海華（ハイファ）」という広東料理店で支配人兼料理長を務めさせてもらいました。

髙見　海華はミシュランガイドにも掲載されたそうですね。

呉　『ミシュランガイド2016』のビブグルマン（リーズナブルに良質な料理を楽しめることを評価する部門）に掲載されました。これまでの努力が認められたようで、とても嬉しく感じました。

良いものをできるだけ安く

髙見　すでに海華でも多くのファンを得ていたかと思いますが、あえて神戸の御影という町に「椰林（ヤーリン）」を立ち上げた理由を教えてください。

呉　成功しても失敗してもいいから、とにかく自分の力で自分の店を立ち上げてみたいと思ったのです。立地については、淡路島の頃の常連さんたちの多くがこの町に住んでいたことが大きかったです。実際に物件を探してみたところ、運良く駅からほど近くにもともと中華料理店が入っていた物件が見つかったので、居抜きで使えると考えて即決しました。

髙見　椰林では香港海鮮料理というジャンルの料理を提供されていますが、その特徴はどういったものなのでしょうか。

呉　中華料理といえば味が濃いものを想像されるかもしれませんが、香港をはじめとした広東料理の多くは薄味で、魚介類などの旨みを生かした仕上がりになっています。当然、そのためには繊細な調理技術が求められるのですが、当店では中国から招いた一流の料理人たちが腕を振るってくれています。まさに本場の味を楽しんでいただけると思います。

髙見　魚介類は日本料理でも多用されますが、やはり香港海鮮料理とでは料理の仕方などが異なるのでしょうか。

呉　そもそも香港海鮮料理で使う魚は味や香りが強いため、刺身や寿司にするのには適しません。その代わり、蒸したり、湯引きにしたり、炒めたりすることで、その味や香りの良いところを引き立たせるわけです。また、日本料理と同様、季節の食材を味わえるのも香港海鮮料理の魅力の一つです。当店では毎朝、市場から新鮮な旬の魚介類を仕入れ、店頭にある水槽に入れておくようにしています。

髙見　経営理念についてもお聞かせください。

呉　モットーにしていることは、「良いものをできるだけ安く提供すること」です。原価率は50％と高くなっていますが、そうすることで一人でも多くの人たちに本場の香港海鮮料理の味や魅力を知っていただきたいと思っています。ちなみに、特にお得なのは前菜5種の盛り合わせにライスとスープ、メイン料理、そしてデザートをセットにした椰林ランチ（1500円）です。また、ディナーの贅沢海鮮コース（6800円）も大人気で、こちらではアワビやカニ、フカヒレといった高級食材やその日の旬の魚介類を使った料理を提供しています。いずれも魚介の旨みを存分に味わえると好評で、最近では地元のお客様だけでなく、大阪や京都、さらには淡路島の頃のお客様たちまで来てくれています。そういった思いに応えるため、これからも最高の香港海鮮料理を提供していきたいと思います。

彩り鮮やかな鮑と大海老と季節野菜の炒物

驚くほど大ぶりなフカヒレの姿煮

身がたっぷりの渡り蟹の炒物

落ち着いた雰囲気の店内