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関東信越会企画①

2019年04月号

栗と北斎と花のまち
小布施町の魅力を探る

 長野県北部に位置する小布施町は人口約1万1000人、千曲川の東岸にある豊かな自然に恵まれた美しい町です。江戸時代には交通と経済の要衝として栄え、現在は「栗と北斎と花のまち」として、年間120万人近くが訪れる人気の観光地となっています。そこで、小布施町のまちおこしの取り組みと観光スポットについて小布施町産業振興課を取材しました。

風土と伝統、歴史に根ざした個性あるまちづくり

 小布施町は周囲を千曲川などの3つの川と雁田山に囲まれた平坦でのどかな農村地帯です。この一帯は古くから栗の産地として知られていますが、それはもともとこの地域が水はけの良い扇状地だったことと酸性の土壌であること、そして寒暖差の大きい気候であることが大きいと思われます。そんな「小布施栗」のおいしさは江戸時代から有名で、将軍への献上品にもなっていました。その伝統を受け継ぎ、町内には今も9軒の栗菓子店があり、カフェを併設したり、新商品を開発したりと、それぞれ特徴のある「小布施栗菓子」を展開しています。

 他方、内陸盆地特有の激しい寒暖差(最高気温35℃、最低気温マイナス15℃)と降水量の少なさ、酸性の土壌は、栗以外の果樹栽培にも適しており、近年はリンゴや巨峰の産地としても注目されています。また、さまざまな野菜も栽培されており、小布施丸なすなどのオリジナリティーあふれる野菜が生み出されています。

年間120万人が訪れる「栗と北斎と花の町」

 小布施町の人口は約1万1000人と決して多くはありませんが、年間に延べ120万人もの観光客が訪れ、栗や果物、野菜などのショッピング、街並みの散策、美術館見学、レンタサイクルによる観光スポット巡りなどを楽しんでいます。

 観光地として小布施町が盛り上がったきっかけの一つは、葛飾北斎の浮世絵、肉筆画などを展示した「北斎館」の開館(1976年)でした。多くの人は小布施町と北斎の接点にあまりピンとこないかもしれませんが、小布施町は千曲川の舟運が発達した江戸時代には交通と経済の要衝として栄え、北斎や小林一茶をはじめ多くの文人墨客が訪れました。北斎は晩年にこの地に滞在し、優れた作品を数多く残しました。まさに「人・物・情報」が集まる文化の地だったのです。

 小布施町ではこうした先人から受け継いだ歴史・文化遺産を大切にしており、「北斎館」をはじめ、北斎を小布施に招いた髙井鴻山ゆかりの「髙井鴻山記念館」(83年開館)など9つの美術館・博物館があります。また、北斎最晩年の大作として知られる天井絵「大鳳凰図」が描かれた「岩松院」という寺院など、北斎ゆかりの地も多数残されています。ちなみに、これらの施設や古刹の整備には80年代半ばに行われた町並修景事業の予算を活用しました。結果、入館者は93年の上信越自動車道須坂長野東インター開通、97年の北陸新幹線一部先行開業などの効果も追い風となり、ピーク時で90万人(全施設合計)に達しました。

栗の木の間伐材が敷き詰められた「栗の小径」と瓦屋根の家並み

栗の木の間伐材が敷き詰められた「栗の小径」と瓦屋根の家並み

千曲川河川公園の菜の花畑

千曲川河川公園の菜の花畑

千曲川堤防の桜堤

千曲川堤防の桜堤

髙井鴻山記念館

髙井鴻山記念館

「町並修景事業」で小布施らしい「景観」を創出

 観光地としての小布施町を特徴づけているのは、先述した町並修景事業によって整えられた町並みでしょう。これは82~87年3月にかけて着手された北斎館周辺を修景、整備する事業で、栗和菓子店、金融機関、一般の民家、行政が一丸となって取り組んだものです。所有地の等価交換、蔵の移動など大掛かりな取り組みとなりましたが、住民が主体となって取り組んでくれたことでスムーズに事業は進められました。例えば、あぜ道に栗の木の間伐材を敷きつめて「栗の小径(こみち)」と名付け、観光客にゆっくり散策していただけるように整備した他、和風建築の信用金庫、格子戸をテーマとした栗菓子店、瓦屋根の家並みなどを整備しました。調和のとれた景観が完成したことで住民の「景観」に寄せる思いと町の美化に対する意識がさらに強いものになったそうです。

 そうした思いが結実したのが、個人宅の庭を開放し、観光客などのお客様にくつろいでもらう「オープンガーデン」という取り組みです。花を介した人と人との交流を通して、豊かな生活文化を築くことを目的に2000年にスタートした取り組みで、「花によるおもてなし」がテーマになっています。現在123軒が通年登録しており、花による交流、花によるまちづくりを進めています。オープンガーデンを訪れるお客様は年々増加しているので、今後も丹精込めた花づくり、庭づくりを通して、小布施人のおもてなしの心に触れる絶好の機会になるでしょう。

インバウンド動向では英国人がトップ

 小布施総合案内所の集計によると、総合案内所に立ち寄って案内を受けた外国人観光客数は16年度で1906人、17年度で2402人と増加傾向にあります。ちなみに、16年度の上位4カ国はイギリス、アメリカ、フランス、オーストラリア、17年度はイギリス、オーストラリア、アメリカ、台湾となっています。17年にロンドンの大英博物館において3カ月以上にわたって「北斎特別展」(北斎館からは天井絵「怒涛」図など13点を貸し出した)が開催されるなど欧米、特にイギリスでの北斎の人気は絶大で、それが観光客の数にも影響しているようです。

 ぜひ、皆様も「栗と北斎と花のまち」小布施を訪問してみてください。穏やかでおいしい時間を過ごしていただけると思います。

小布施栗

小布施栗

オープンガーデン

オープンガーデン

格子戸を店舗デザインのテーマとした栗菓子店「小布施堂」

格子戸を店舗デザインのテーマとした栗菓子店「小布施堂」

【上】北斎館外観 【下】北斎館所蔵の屋台。上町祭屋台の天井に描かれた男浪・女浪と称される2枚の天井絵(「怒涛」図)

【上】北斎館外観 【下】北斎館所蔵の屋台。上町祭屋台の天井に描かれた男浪・女浪と称される2枚の天井絵(「怒涛」図)

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