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中部会企画①

2019年09月号

歴史情緒を観光に生かす郡上八幡

 日本三大盆踊りの一つ「郡上おどり」のふるさととして知られる岐阜県の郡上八幡。重要伝統的建造物保存地区に指定された町並みや〝天空の城〟と呼ばれる日本最古の木造再建城、郡上八幡城が多くの観光客に支持されています。地域の人たちはこの歴史情緒あふれる町並みと文化をいかに残し、観光に生かしてきたのでしょうか。郡上八幡観光協会を取材しました。

朝霧に浮かび上がる郡上八幡城。〝天空の城〟として話題に

朝霧に浮かび上がる郡上八幡城。
〝天空の城〟として話題に

日本最古の木造再建城郡上八幡城

 岐阜県奥美濃の郡上八幡は、400年以上前から城下町として発展したエリアで、現在も市街地奥の山頂にそびえる郡上八幡城が町のシンボルとなっています。この城の始まりは戦国時代末期永禄2年(1559年)、初代城主の遠藤盛数によって砦が築かれたとき。稲葉貞通、遠藤慶隆の興亡を経て大普請され、寛文7年(1667年)には幕府から城郭に格上げされましたが、その後、明治4年(1871年)の廃藩置県で廃城となり、石垣を残して全てが取り壊されてしまいました。現在の城は昭和8年(1933年)、当時の大垣城を参考に再建されたものです。木造4層5階建の天守閣などは郡上市重要文化財に、一帯の城跡は県史跡に指定されています。再建から80年を超える木造天守展望台からの景観は美しく、春の桜や初夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪化粧など四季折々の表情を楽しむことができます。また2016年の第64回日本観光ポスターコンクールでは、朝霧に浮かび上がる郡上八幡城の写真を全面に使ったポスターが上位に入賞し、〝天空の城〟としても話題になりました。


風情たっぷり清流と名水の城下町

城の展望台から郡上八幡の町並みを見渡す

城の展望台から郡上八幡の町並みを見渡す

 そんな郡上八幡城の城下町は〝清流と名水の城下町〟と呼ばれ、中心部を吉田川が流れている他、市街地内にはきれいな水路が張り巡らされています。この水路は大正時代に川の北側(北町)が大火で焼失した後、復興の際に整備されたもので、水路沿いに古い家並みが連なる通りは風情たっぷり。かつて中級藩士や下級武士が多数暮らした「柳町」、医師や桶屋、大工、畳屋、塗師屋、仕立て屋などさまざまな職人や商人が住んでいた「職人町」「鍛冶屋町」などは、「統一された町家と水利施設が一体となって歴史的風致を伝えている」として国の伝統的建造物保存地区に選定されています。その他、殿様の屋敷があった「殿町」や目抜き通りである「本町」「新町」にも、古い商店が数多く残っていて、どこを歩いても城下町風情を味わうことができます。また、最近では移住者たちが空き家を活用して新しく工房やお店を開くケースも増えており、飲食店も各所に点在しているので、お買い物や食べ歩きも楽しめます。ちなみに郡上八幡の町並みは、ひとまわり1時間半から2時間ほどで散策することができます。

日本一のロングラン盆踊り「郡上おどり」

 この城下町が最もにぎわうのが「日本三大盆踊り」の一つ、夏の郡上おどりの時期です。7月中旬から9月上旬にかけて、30夜以上にわたって続けられる日本一のロングランの盆踊りとして知られる郡上おどりは、400年以上の歴史を有しています。江戸時代に城主が領民の融和を図るため、藩内の村々で踊られていた盆踊りを城下に集め「盆の4日間は身分の隔てなく無礼講で踊るがよい」と奨励したことから始まったと言われています。

 こうした歴史的背景は現在にまで引き継がれ、観光客と地元住民の別なく、老若男女が一つ輪になって踊ることが郡上おどり最大の魅力です。お囃子と下駄の音、そして川のせせらぎが山間に響く中、大勢の人たちが一心に踊る様は実にノスタルジック。

 中でも圧巻は、8月13日~16日に行われるクライマックスの「徹夜おどり」。夜を徹して踊りが途切れることなく続き、夜明け近くに東の空が白む頃には、歌い手と踊り手の息がピッタリと合い、誰もが不思議な一体感に包まれます。ぜひ一度、こうした郡上おどりならではの感動を多くの人と味わってみてはいかがでしょうか。

郡上八幡観光協会

昔ながらの風情を守る持続的なまちづくり

 こうした歴史ある町並みや文化を長らく保存できたのは、住民たちの努力によるところが大きいといいます。国の伝統的建造物保存地区の選定や市の景観計画も大事ですが、それとともに住民たちが「古い町並みを守ろう」という意識で暮らしてきたからこそ、郡上八幡の城下町風情は現代にまで息づいているのです。事実、保存地区外の住民が住居を建て替える際にも、誰に強制されるでもなく自然と町の雰囲気に合うような外観を選んでいるそうです。また、先述した移住者も町によく溶け込んでいます。郡上八幡の風情に惹かれて移り住んできた方々だけあって、それを一緒に守っていきたいという思いが強く、地域の集まりや仕事にもしっかりと参加する人が多く、中には地区長を務める人もいるそうです。

 近年、郡上八幡には愛知県・三重県・静岡県など中部圏の他、週末は関東圏からも大勢の観光客が訪れており、インバウンドも台湾や東南アジアからのツアー客や欧米からの個人客が増加しています。そんな中、多様化する観光客のニーズに応えつつも、いかにこれまで通り持続的なまちづくりを続けて景観や文化を守っていくかが課題となっています。観光協会としても、人集めのための一過性のイベントを企画したり、観光地化を進めたりするのではなく、住民たちが地元の景観や文化を次代に継承していく支援をしていきたいと考えているそうです。

日本最古の木造再建城である郡上八幡城

日本最古の木造再建城である郡上八幡城

各所に水路が張り巡らされている。写真は「いなわこみち」という最古の用水路。近所の人たちが「いなわと親しむ会」をつくり、当番制で掃除を行っている

各所に水路が張り巡らされている。写真は「いなわこみち」という最古の用水路。近所の人たちが「いなわと親しむ会」をつくり、当番制で掃除を行っている

日本名水百選」の第1号に指定されたことで有名になった湧水、宗祇水(そうぎすい)

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職人町の古い町並み

職人町の古い町並み

鮎の塩焼きなど、〝清流と名水の城下町〟ならではのグルメも味わえる

鮎の塩焼きなど、〝清流と名水の城下町〟ならではのグルメも味わえる

大盛り上がりの郡上おどり

大盛り上がりの郡上おどり

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