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百年企業

2021年02月号

八海醸造(株)
清酒「八海山」の製造を軸に
魚沼の魅力を最大限に発信する

清酒「八海山」の蔵元として知られる八海醸造(株)は「未来永劫、存続する会社」を目指し、日本酒造りだけでなく、さまざまな事業に挑戦し続けている。日本酒業界と魚沼地方を牽引する同社の先進的な取り組みについて、3代目の南雲 二郎社長に聞いた。

魚沼の自然を凝縮させた酒造り

南雲 二郎社長

南雲 二郎社長

 新潟県南魚沼市にある名峰・八海山(標高1778m)の麓で、清酒「八海山」を醸造し続けている八海醸造(株)。現在は「八海山」の他、焼酎「宜有千萬」や梅酒、「ライディーンビール」、麹甘酒「麹だけでつくったあまさけ」などの製造、さらには「八海山」を醸造している第二浩和蔵を中心に食事処やカフェ、菓子屋、売店、キッチン雑貨店などを集めた「魚沼の里」の運営などを展開している。

新潟県南魚沼市にある酒蔵「第二浩和蔵」

新潟県南魚沼市にある
酒蔵「第二浩和蔵」

 そんな同社が創業したのは1922年のこと。創業者の南雲 浩一氏は3代目の南雲 二郎社長の祖父にあたる。「祖父は地主として地域活性化に努めていたので、当時も地域に酒蔵が必要だという思いで事業を興したに違いない」と南雲社長は話す。しかし、当時は現在のように流通網が確立されておらず、地域の需要だけでは売上げを思うように伸ばすことができず、「しばらくは我慢の時期が続いた」そうだ。

長寿企業を研究する 日本経済大学・後藤俊夫教授の「目」

 この状況を打開したのが2代目の南雲 和雄氏だった。1960年に2代目社長になった和雄氏は、販路を開拓するために関東(主に群馬県や神奈川県)に営業を展開していったのだ。ちなみに、同社が理想とする酒は「酒としての旨みは十分にありながら、食事を邪魔せず、いつまでも飲み飽きない酒」。最高品質の酒米と新潟の豪雪地帯ならではの伏流水「雷電様の清水」を使ってバランスのとれた淡麗な酒は、アッという間に消費者の心を掴み、「造れば造るほど売れる状態になった」という。

質の良い酒をより多くの人に。量産化を目指すも人手が必要な工程には人材をしっかりと投入する

質の良い酒をより多くの人に。量産化を目指すも
人手が必要な工程には人材をしっかりと投入する
酒蔵「第二浩和蔵」

 だが、この状況に二郎社長はある種の危機感を覚えていた。「1989年頃から生産量が追い付かないようになっていた。市場に十分な量を供給できない状態が続くと、プレミア感ばかりが先行し、いずれは飽きられてしまうのではないかという不安があった」と。こうした背景のもと、同社はその頃から取引先に足を運ぶことを重視するようになった。「度々、訪問の機会を設け、需給バランスが適正か、どのようなニーズがあるかを見極め、生産体制にフィードバックするようにした」と二郎社長は話す。 その一方で同社は適宜、最新設備などを導入し、品質を維持向上しながら生産量の向上を推進。実際、当時の年間生産量(清酒)は約8000石(1石=180l)だったが、2001年頃から現在に至るまで約3万石程度で推移しているという。それと同時に、同社が力を入れ続けているのが人材育成だ。「いかに機械化を進めても酒造りには人の力が欠かせない。そこで、酒造りにかける思いや技術を若手社員に伝えていく体制を整えていった」と二郎社長は振り返る。

「未来永劫、存続する会社」に

同社を代表する銘柄「特別本醸造 八海山」

同社を代表する銘柄
「特別本醸造 八海山」

 しかし、国内の人口減少や日本酒の需要減は徐々に日本酒業界全体に暗い影を落としている。実際、清酒課税移出数量(国内出荷量)は1133kl(1998年)から467kl(2019年)にまで激減しているのだ。こうした中、二郎社長は新たな販路を開拓するために、日本酒以外の商品開発にも乗り出すことに。その一つが麹甘酒「麹だけでつくったあまさけ」だ。「既にいくつかの飲料メーカーが甘酒を手掛けていたが、酒蔵として本格的に設備投資などして取り組むのは当社が初で、それが面白いと感じ、また私としては蔵人が手掛ける甘酒ならばもっと良いものがつくれると感じていた。そこで、蔵元にしかできない甘酒を目指し、麹だけで仕込む甘酒の開発に挑戦した」と二郎社長。その読みは見事に的中、甘酒の売上げは順調に伸び、いまや同社の代表的な商品の一つに成長した。その他にも同社はクラフトビールや焼酎を製造しているが、いずれも売上げは堅調に推移している。さらに、2021年からは北海道ニセコ町でウイスキー蒸溜所が本格的に稼働するというから、今後の商品展開も大いに楽しみだ。

2020年8月に新しく発売した(左から)「大吟醸 八海山(精米歩合45%)」と「純米大吟醸 八海山(精米歩合45%)」も今後代表酒になり得る銘柄

2020年8月に新しく発売した(左から)
「大吟醸 八海山(精米歩合45%)」と
「純米大吟醸 八海山(精米歩合45%)」
も今後代表酒になり得る銘柄

 もちろん、海外の販路もしっかりと視野に入れている。実際、同社は1990年代後半からアメリカなどへの輸出を進め、現在の輸出は世界26カ国にまで達している。しかし、「世界のワイン市場と比較し、日本酒市場は約4000億円にとどまっている。これからはワインのように文化そのものを世界各地に発信し、定着させていかなければならない」と二郎社長は強調する。そこで、同社は日本酒の啓発活動に注力しているティモシー・サリバン氏を2013年にブランド・アンバサダーに任命、酒造りの一連の流れを体験してもらうなどして、よりディープな情報発信に努めている。

 実に多彩な取り組みを展開している同社だが、常に掲げている目標がある。それは「未来永劫、存続する会社」を目指すということだ。そして、そのためにも「地元である魚沼と共存共栄し続けたい」と二郎社長は微笑む。その思いは、同社が「郷愁とやすらぎ」をテーマに開発した「魚沼の里」に表れている。敷地内には第二浩和蔵を中心に1000tの雪を収容する雪中貯蔵庫「八海山雪室」、「そば屋 長森」、「菓子処 さとや」、「猿倉山ビール醸造所」などが点在し、連日、地域内外の多くの利用者でにぎわっている。「コロナショックを機に地方の魅力があらためて注目されているので、テレワークやワーケーションの拠点としての魅力も発信していきたい。そうすることで地域に誇りとにぎわいを創出していきたい」と二郎社長は力を込める。また「コロナショックが終息し、インバウンドが戻ってきたときに備えて、今のうちに世界に向けて『魚沼』の魅力を発信しておきたい」とも。 コロナショックは日本酒業界にも甚大な影響を及ぼしているが、二郎社長をはじめとした八海醸造の社員たちはあくまでも前向きに事業に取り組んでいる。このポジティブかつ柔軟性に富んだ精神こそ、地域を牽引する長寿企業の原動力なのかもしれない。

ビール、焼酎など多彩な商品ラインアップを有する

ビール、焼酎など多彩な商品ラインアップを有する

ヒット商品の一つが麹甘酒「麹だけでつくったあまさけ」

ヒット商品の一つが麹甘酒「麹だけでつくったあまさけ」

広大な敷地にさまざまな施設が並ぶ「魚沼の里」

広大な敷地にさまざまな施設が並ぶ「魚沼の里」

八海醸造(株)

所在地
新潟県南魚沼市長森1051
TEL
0800-800-3865
URL
https://www.hakkaisan.co.jp/

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